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フィリップ・トルシエという男(W杯決勝トーナメント進出に寄せて)
 glider  - 02/6/17(月) 4:49 -

引用なし
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   ワールドカップ開幕前、トルシエはレキップ紙のJ.P.コアント記者の取材を受けました。

「我々にとってのワールドカップは5試合で成り立ち、最低2試合に勝たねばならない。1次リーグのベルギー、ロシア戦で1勝1分け、つまり勝ち点4でいけば決勝トーナメントに進出できる。しかし僕達の一番の目標は自分を表現することをためらわないことだ。
各自の能力90%を発揮しなければならない。ワールドカップは重大だが、それゆえのプレッシャーは無視しよう。僕達のレベルにあったプレイをすれば、いや能力の90%でプレイしたら僕達のチームは最強に近付く。そうすれば僕達は1次リーグを突破できる。
その後は、もう何でも起こりうるじゃないか。奇跡だって起きる。(トルシエ)」
「彼の計算は予選リーグを2勝1分け。5試合という言葉の意味はベスト8進出である。(コアント)」
「日本がベスト8に進出したら?それは異常なことだ。このことを数日前、日本のマスコミに説明しようとしたが誤解されたらしい。真の快挙とはベスト16までだ。しかも、そこで負けることだ!それ以上勝ち進んだらワールドカップのレベルが低いということになる。日本はベスト8にふさわしいチームにはまだなっていない。それはワールドカップの成功という観点からは好ましいことではない。だからといってベスト8に入れるならもちろんノンとは言わない。ぼくはスターになれるし、願ってもないことだ。(トルシエ)」

自ら「我々にとってのワールドカップは5試合」と言いながら、ベスト8進出を「ふさわしくない」と言う逆説。
予選リーグを計算通り乗り切ったトルシエ・ジャパンの1/8ファイナルは?

「日本は世界チャンピオンを相手に3ラウンドは互角に戦えても4ラウンドからはもう戦う力を持たないボクサーのようだ。だから、このボクサーの目を眩ませるために陽動作戦を取らなければならない。(トルシエ)」
「こういってトルシエは思わせぶりな笑顔を作ったのだった。(コアント)」

(スポーツ・ヤア!ワールドカップ増刊号から抜粋)

このレキップの記者は、トルシエのアフリカからの軌跡を追い、かつ客観的な立場から文章を書いていて、著作「異端児トルシエ」もその観点からトルシエの人物像をよく浮かび上がらせています。
その本を読んでぼくが受けたトルシエの印象は、はっきり言って滅茶苦茶なやつ、ほとんどジャイアン、というものでした。
サッカーに対する異常な情熱、尋常とは思えない行動力とその言動。
自分が正しいと思うことのためには協会副会長の頭を叩き割ったり、ハーフタイムに「アドバイス」しに来た政治家に掴みかかったり、ジャーナリストはぶん殴るわ、試合中にブーイングしたサポーターに向かってチ○ポ出すわ、応援にきた軍隊のヤジに怒って突進したり、言うことを聞かない選手に急に激怒して食事中に皿を叩き付けたり、ほとんどただのキレやすいオヤジとしか思えない。

一方で、ブルキナ代表のマネージメントをしていたディアラという男はこうトルシエを評しています。
「あの男は獣ですよ!ピッチに上がると彼は豹変する。でも彼は選手の能力を最大限引き出す方法を知っていました。実に的確な言葉をしゃべり、まるで心理学者のようだった。サッカーのことだけでなく、日常のいろいろなことを選手に教えた。例えばビュッフェで選手がたくさん取りすぎ、後の人の分がなくなってしまった時も彼はとても怒った。いずれにせよ彼は2週間でチームをまったく作り替えてしまった。」

選手時代のトルシエのチームメイトで、現レッドスター・パリの会長、J.C.ブラはトルシエをこう評する。
「フィリップは創造性豊かで、いつも何かに挑戦していないと気がすまない性格だった。変わり者の彼は、だから誰とでもうまくやれるわけじゃない。(中略)優しいやつだが愛情表現が下手すぎる。彼の監督としての技量は誰もが認めているし、他のやつより10年は先を見ていた。彼は対立と緊張関係をあえて求めている。練習中は心理ドラマさながら、選手達を機械化し、正と負を浮き彫りにしようとする。かわいそうなのは選手達だった」
「フィリップ・トルシエは乱暴なまでに選手達を排除し、彼の非妥協的な性格をそのままシステム化しようとした。自分と選手達を支配者と被支配者にわけたのは何故か。被支配者が怒りで立ち上がり、支配者も上昇するという図式を狙ったのだった。(コアント)」

その他にもトルシエが「いつも何かのプレッシャーがないと生きている気がしない」ということを表すエピソードがあげられています。
そして本人のこんなコメント。
「ぼくは本当に人間が追い詰められた時に出すパワー、それにとても興味があるんだ。」
逆にチームがある程度の成功をおさめ、国王にまで歓待されている、というような状況になるとトルシエは急速にモティベーションを失います。
モロッコの雑誌のこの時期のトルシエ評。
「戦闘的でイケている、自由な発想で貪欲にサッカー論をぶつ男の姿はなかった」

肉屋の長男として生まれ、激しやすい母親の性格を譲り受け、近所のガキどもを束ねていた少年。10才にならない時、父親に連れられてはじめて牛の解体作業の見学をし、食い入るように見つめた少年。
朝の5時から作業服を着せられ、子牛の解体作業を手伝わされていた少年。
負けず嫌いで好戦的で統率力があって、でもサッカーと同じくらい絵が得意だった少年。
地下鉄でキップを切りながら、プロ選手を目指し、実現した男。
学がないことをコンプレックスに思い、意地で運動療法士と体育教師の資格を手にした男。
監督になる決意をすると即座に選手を引退し、フランスサッカー技術委員会のミッシェル・イダルゴ元代表監督の所に突撃して世界一の指導者育成学校と言われたフランスINFに登録した男。
そこで早くも、後のフランス代表FWジャンピエール・パパン少年を心酔させた青年監督トルシエ。
そして、そこでベンゲルと同期生として出会ったことが、彼を日本に導いた。
そのトルシエが日本で、ワールドカップで成功を納めようとしている今。
今のトルシエはどうでしょうか?
ぼくの意見をひとつ言えば、この男にかぎってプレッシャーから縮こまって消極的な采配を選択することなど考えられない、ということ。
決勝トーナメントでも積極的な戦いを見せてくれるでしょう。
決して一緒に仕事をしたいとは思わないけれど(笑)ぼくはこの男を面白いと思う。
「異端児トルシエ」の翻訳者、吉村女史の「こんな人間が世の中にひとりくらいいてもいいではないか」という言葉に同意します。
ぼくは、少なくともあと3、4試合は「トルシエ・ジャパン」を見ていたいと思います。

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フィリップ・トルシエという男(W杯決勝トーナメント進出に寄せて) glider 02/6/17(月) 4:49

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