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そこには、「強豪国相手にはどうしても5バック気味になって対処せねばならない」、加えて「5バック気味に押し込まれる展開から低い位置でボール奪取が続く場合、縦への物理的スピードが必要になってくる」、といった事情があるように思う。その場合、出来れば両アウトサイドは走力・持久力・アジリティに優れた「受け手」タイプの選手が望ましい。小野や中村などの「出し手」タイプでは、「フォローの少ない局面で一人で持ち上がる」ということが出来ない。
オリンピック代表のスタッツで彼が並べた「中村―稲本・明神―酒井」という「2DH2アウトサイド」を観れば、結局彼も「日本の個人能力では、強豪国に立ち向かうためには中央に『最低2枚』の『DH』が必要である」という現状を認識している、ということなのだろう。さらにいえば、「トップ下で使えるのは結局ヒデだけ」ということも、「サイドにはある程度単独で突破する力が必要」ということも。そう考えると、多くの批判を受けたフランス戦・スペイン戦での「3ボランチ」の意図が見えてこようというもの。つまり、あの3ボランチは「小野・中村を使う場合はああするしかない」というトルシエなりの回答であり、同時にトルシエの小野・中村に対する「個人解法を暗喩的に求める布陣」であるような気もするのだ。
余談だが、そうなるとトップに一瞬の縦へのスピードでは柳沢と並んで日本有数のFW久保竜彦がずっと招集され続けている理由も分かるような気がするし、また現状の西澤では今後選出の可能性は薄いのかな、という気もする。蛇足。
-実際、トルシエはかなり迷っていると思う。「失敗をする人間」として、自分の理想と現実の相克に日々葛藤する彼の仕事、及び選手の力量を把握する眼力の鋭さには敬服する(伊東輝の継続起用のみ未だに謎であるのだが)。「役割分担のない理想的なトータルフットボール」を追求し続けたい。が、それではやはり「来年の六月には間に合わない」。「日本のサッカーが将来目指すべき形」はまぎれもなく「リゾーム」だが、現状を見るにそれはW杯の鉄のグループリーグを突破するには優しすぎるし、洗練され過ぎている。トルシエの「迷い」の根元にはこういった考えがある、というように推察する。
最後に…このキリンカップで何かが分かるとは思えない。トルシエの迷いに対してコンフェデ杯メンバー主体の現代表が何か答えを出せるとは思えない。
パラグアイ戦、日本の1点目。小野の相手GKとバックラインの間のスペースに測ったように出された、バックスピンを掛けたロブボール、そしてそれにいち早く反応してパラグアイDFを置き去りにした柳沢の反応は素晴らしかった。が、ボール保持時、味方ボールホルダーに対する第二第三の動きおよびその継続性が皆無に等しかった、コンディション劣悪のパラグアイに何が出来たから、そしてそのパラグアイに完敗したユーゴに何が出来たからといって意味があるとは思えない。ケットシー氏のおっしゃるように「『いつも心にサンドニを』、意識を高く持ち続ける」必要は勿論あるが、それにもやはり限度がある。自分たちが幾ら高い意識を持っていても、相手のサイドアタックが鋭くなる訳ではない。
サイドに強烈なアタッカーを置いているチームに対する守り方・攻め方は依然不透明なまま。サイドアタッカーを擁するチームには5バックで臨むというのは良いが、そうすると両サイド、特に左サイドには誰を使うべきなのか。小野なのか中村なのか、アレックスなのか本山なのか。未だトルシエの中で答えは固まって居ないように思える。だからこそ、秋田や上村と同時に宮本を呼ぶことが出来るのだろう。
だが、キリンカップを含め本番までにこなす試合は残り4試合程度と聞く。トルシエの迷いに対して、答えを出してくれる対戦相手すら、もう本番まで望めないかも知れない。この疑義は、本番の試合を待つまでは答えの出ぬまま延々と継続して僕の中に残ることになりそうだ。
来年六月、この疑義は杞憂に終わるか、それとも…。(この項・了)
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