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現状の日本代表をどう評価するか、については意見の別れる所ですね。
ぼくとしては、矛盾を内包しつつも理想形も見え、到達点は見えつつも現状との差の大きさに不安を抱えているといった所です。
ではその「矛盾」について言及します。
トルシエ自らも語っているように、このトルシエ式フラット3は「ボールオリエンテッド・ゾーンディフェンス」です。
まずボールありき、ということですね。
ゾーンバランスを保ち、コンパクトな前後の距離と各選手間の距離を維持することで、その中でのボールの位置とその流れ、相手選手の位置と動き、その予測、組織だったボールの動きへの反応の約束事、そうしたことからその「ボールオリエンテッドな」攻撃的守備をしやすくします。
そうして保たれたゾーンバランスと選手間の緊密な距離によってそこからの速い攻守の切り替えもそのことで可能になります。
システムの要は、ゾーンバランスとその「組織だったボールの動きへの反応の約束事」で、それはつまりボールの動きによってゾーンの移動と収縮をし、そこでボールを取り戻せずとも次、また次とこれが守られている限りはプレッシャーがかかるということになります。
もちろんこれは理論にすぎず、相手の動きがこちらの予測と反応速度を上回ればプレッシャーをかいくぐられ、フリーでボールをまわされますね。
しかしそれはどのような組織を持ってしてもどうしようもないことです。
だからといって完全なマンマークでもしようものならば、そのような相手に対してどうなるかは歴然です。
90分に渡ってそのような守備をするのは、集中力、体力で相手を大きく上回らねばならないのです。
では、ゾーンに入ってくる相手をマークする通常のゾーン守備をすれば?
それは、一局面では守れる確率を高めるかもしれません。
しかし、こちら側の組織は広げられることにもなります。
フリースペースを生む確率と、ボール奪取をした時の攻撃への切り替えが遅くなることは妥協せねばなりません。
つまりはどのようなシステムをとるにしろ、メリットデメリットは存在するということです。
そしてトルシエ・ジャパンは上記のような「ゾーンバランスド・ボールオリエンテッド・システム」をとっているわけです。
そうしている以上は、絶対に守らねばならないことがあります。
それは「自分が主体で守る(守ろうとする)、積極的な気持ち」です。
「常にアグレッシヴにボールを狙って行く気持ち」です。
「読み、予測し、自信を持って迷いなく積極的に動く、前向きな気持ち」です。
それが失われればどのような結果が待っているかは、はからずもサンドニで証明されてしまいましたね。
さて、少し話しが外れました。
現在のシステム的な問題点を、率直に言います。
上記のようなシステム特性がある以上、現状のライン3には矛盾があります。
ラインブレイクが遅すぎるとぼくは思うからです。
最終ラインの前、中盤の深い所にボールを出された場合、ボールサイドにコンセントレートしがちなこのシステムの特性上、例えばサイドにボールホルダーがいて、そこで奪えずに素早く中央に出されたような場合にはMFよりもバックの誰かが行った方がずっと速い時があります。
本来そのゾーンを担当するMF(例えば戸田)がラインをカバーし、1stプレスにはバックスが行く方がずっと理にかなっていることが。
しかし、今の3バックスは、こうした時にもまずフラットにラインを作ります。
ゾーンを移動・修正し、「ライン」を作ります。
それからまだ相手にプレッシャーがかかっていなければブレイクする。
でも、それではもう遅いのです、多くの場合には。
なぜ、まずラインを作るのか?
むろんラインを形成し、相手に対して牽制をかけることのメリットはありますし、それも理解はできます。
しかし、ラインは何も3人でなければならないわけではありません。
ラインは何もDF登録された選手だけが作るべきものでもありません。
後ろから走り込んでくるのが見えているのに、そこにボールが出そうなことがわかっているのに、3人でラインを作る必要などないと思います。
MFだろうがDFだろうが、最も早く行けるものが行くべきです。
行かないのはシステムが本来的に要請することと矛盾しています。
そしてそれは、サイドの深い位置、3バックスの外のゾーンにもまったく同じことが言えると思います。
それをしないから、SHが縦の長い距離を見なければならず、結果的に中盤の人数が足りなってプレスがかかり切らず、押し込まれている。
3ー5ー2、3ー6ー1のSHはSBでなくMFでなくてはなりません。
押し込んでいる時に限定的にウィング的になることはあっても、押し込まれた時間帯に限定的にSB的になることはあっても。
3バックスの外の守りを恒常的にSHが担当するようなことは「守備的」ではなく「負け的」です。
オフサイド・ルールを活用することは、必然的なことです。
コンパクト・フィールドを実現するためには、ライン操作と押し上げが必要です。
相手FWとの駆け引きも重要なことです。
しかし、それに囚われてはいけません。
まずは、ボールに対しアグレッシヴにアプローチすること、素早く反応することが第一だと思います。
特にそういうシステムなのですから。
大きなサイドチェンジに対しても、もっともっと速く反応できるはず。
セイフティ・ファーストに行くばかりに、人数が揃っているのにプレスがかからない、なんてケースも見られる。
もっと思いきって自信を持ってボールの流れを読み、予測し、先に動こうとしなくてはならないと思う。
ゾーンの移動、収縮・拡散、ボールと相手の動きへの予測とアプローチ、まだまだ遅すぎる。
もちろん、判断の速い展開の速い強豪のサッカーに対する慣れ、そういうレベルの戦いへの慣れということはあるでしょうが。
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